成長期の食事と栄養
成長期の栄養が大切だということ。
これは言うまでもないことですが、実際にはあまり気にしていない人が多いようです。
成長期にはタンパク質をはじめ、脂質、ビタミン、ミネラルなどたくさんの栄養を必要としていますが、一般的な糖質中心、野菜中心、間食にお菓子や果物ばかり与える食事では本来の必用量は到底賄えないでしょう。
そのうえ妊娠中からの栄養不足が当たり前の現状ですから、不足を取り戻すためにも成長期の食生活が非常に重要・・
そう、それは間違いないと思うのですが・・
いつもこんなこと書いている一方で、気になっていることがあります。
「子供が食べてくれない!」と半ばノイローゼになっているお母さんたちの存在です。
食べてくれない子供
栄養療法を取り入れている医師などは、
「生後5か月ごろには母乳だけでは栄養が不足してしまう。特に鉄不足が問題なのでレバーペーストなどの補完食を始めるように。」
このような指導をしていますね。
間違いではないのかもしれませんが、子供の発育状態や母乳以外の固形物の受け入れ状態はそれぞれ。
中には頑として受け付けない子供がいます。
子供に栄養を与えなければ!栄養失調になってしまう!!
お母さんはあの手この手で食べさせようとしますが、上手く行かない。
「子供がどうしても食べてくれないんです!」
と、母親としての自信を失い、ほとんど育児ノイローゼ状態になってしまうこともあるようです。
でも、うちの子も0歳の時期はレバーペーストなんて食べませんでした。
大人だって苦手な人が多いのだから不思議なことじゃないと思い、僕は与えるのをやめました。
その頃、妻の母乳はしっかり出ていたこともあって、結局10か月過ぎるまで完全母乳のみ。
他は、水を少し飲ませていたくらいです。
でも特に、問題なかったと思っています。
正しい離乳食の開始時期は?
離乳食(補完食)の開始時期については諸説あり、生後2~3か月から2年まで、いろいろな情報が流れていますね。
最近では、世界保健機構(WHO)が生後6か月ごろからの補完食を勧めているようですし、従来のお粥や野菜のではなく、乳児期から積極的に肉や卵などを与える育児を実践する人が増えてきています。
これは成長期の栄養充実の観点から望ましいことかもしれません。
でも、このような情報は時代と共に変化していますし、親が得た「情報」通りに自分の子供もが食べてくれるかとなると、そうはいかないかも。
伝統的な暮らしを営む民族は生後1年程度母乳だけということも珍しくないようですし(つまり人類はずっとそれでやってきた)子供の栄養状態や発育状態によってもかなりの差があります。
母乳以外の栄養を受け付けるかどうか、その状態は一人一人異なるでしょう。
鍼灸院の患者さんに、生後1年以上たってから離乳食を始めた子供が何人かいますが、今は肉などをよく食べて非常に発育良好です。
ちなみに、うちの子は離乳食の開始を慎重にしていたところ、10か月ごろに親が食べているものを奪って食べるようになりました。
じつは1年くらいは母乳だけでいいんじゃないかと思い、なるべく与えないようにしていたのですが、10か月ごろになると親が食べているものを欲しがるようになったので与えたんです。
しかも我が家の場合、わざわざ離乳食を用意したことはありませんでした。
自然と親が食べているものを少しづつ食べるようになり、だんだん固形物の比率が高まってくるという感じでした。
その結果、2歳半の現在、身体の発育も知能の発達も明らかに良好、食欲旺盛、元氣がありすぎて持て余しているくらいです。
個人的な意見ですが、母乳を十分飲んでいる限りは、そして親が積極的に栄養を満たしている限りは、焦らず子供が欲しがる時期を待つというのも手だと考えています。
たのしい子育ての秘密
そんなことを考えていたところ、妻が読んでいる育児本に素晴らしいことが書いてあるのを見つけました。
臨床心理士・金盛浦子さんの「たのしい子育ての秘密」という本です。
ちょっと長いですが、とても参考になったので引用します。
食べるようにするコツは放っておくこと
極端な偏食、ほとんど食べない少食、何とか食べはするけどひどく時間がかかる。何とか食べさせたくて、でも思い通りにならなくってイライラし、ついには爆発してしまうお母さん。
あらあら、そんなことしてたら子どもはますます食べる意欲を失ってしまうのに、悪くしたら拒食症にさえなりかねないのに、食べることをめぐっての強制や指導をせずにいられないお母さん方が、あそこにもここにもいます。
「そんな!子どもは放っておいたら好き嫌いばかりします。ちゃんと必要なだけの量だって食べなくなってしまいます。だから、母親だってつらいけど、子どものからだを思えばこそ、つい口うるさくなってしまうんです。まるで母親だけが悪いみたいなこと言わないでください!」
怒りもあらわに反発したお母さんがいました。でも、わたしは保証しちゃいます。そんなお母さんこそが子どもを追い詰める親の典型。そんなお母さんに育てられる子どもは、食の問題に限らず、さまざまなこころの苦しみを背負わされがちです。
「うちの子は5歳になっているというのに、ミルクしか飲みません。他の食べ物はほとんど食べません。わたしがどんなに努力しても、どんなに工夫しても、どんなに時間をかけても嫌がるばかりです。最後にはヒステリーを起こして暴れます。」
深刻な表情でそう訴えてきたお母さんがいました。わたしは「あら、そんなのだいじょうぶよ。」と答えました。
「だいじょうぶ!これからミルクだけしか飲まなくても何も言わないで、好きなようにさせましょう。でも食卓の上には美味しい食べ物を並べてあげて、おかあさんとおとうさんがたのしそうに、おいしそうに食べている姿をを見せてあげ下さい。お子さんが食べないからって、心配そうな表情はしないこと、不機嫌にならないこと、まして強制など決してしないこと。」
おかあさんは唖然。
「ほんとうにそれでいいんですか?だいじょうぶですか?ますますわがままに・・」
「だいじょうぶ! 一週間でいいから、その通り試してみてください。」
わたしは重ねて保証しました。
さて一週間後のカウンセリングのとき、おかあさんの表情はやわらいでいます。
「アドバイスいただいたとおりにしました。そしたらあの子、少しずつミルク以外のものも口に入れてくれるようになりました。」
「ね、しょうでしょ。食べさせようとすれば食べない。放っておけばいろいろ食べるようになる。それだけのことなのよ。生きるのに必要なもの、育つのに必要なものは、おかあさんがとやかく言わなくたって子どものからだがちゃんと知ってるの。これからも言わないでおいてくださいね。それが好き嫌いのない子に育てるコツですよ。」
5歳になるまでほぼミルクだけ。食の問題としてはそれなりに根が深いものがありましたから、そのまま即座に「普通に」食べられるようになったわけではありません。それでも半年ほどが過ぎるころには「まるでウソのように元気にいろいろ食べる子」になりました。
こんなふうに訴えたお母さんもいます。
「うちの子はお菓子みたいなものしか食べません。食事なんてほんのわずかだけ。食卓につくといつも暗い顔になります。」
そりゃそうよね、と思います。
食卓につくと必ず脇にあるのがお母さんの心配そうな顔、厳しい顔、食べないと許してくれないこころ。暗い顔になるのが当たり前ですよね。おかあさんの怖い顔と食卓の上の食べ物とが一緒になって心に刻みつけられれば、どれもこれも食べたくないものばかりになってしまいます。
「でも、お菓子だけしか食べなくてもちゃんと元気に過ごしているでしょ?」
「ええ、元気は元気なんですけど体重が軽くて・・。身長も平均以下だし・・。」
いわゆる常識にとらわれていると、どうしてもそう考えてしまいます。でも、この事例でも私は保証しました。
「だいじょうぶ!もう何も言わないで。」
すると3か月ほどが過ぎたころ、おかあさんはこう報告してくれました。
「食べる量はまだ少ないですけど、それなりに食事らしい食事をしてくれるようになりました。」
さて、今この瞬間も「食べることが一番つらい」と泣き叫んでいる女の子がいます。「食べなさい!残さないで!」をずっと言われ続けてきた子です。
食べる、それは生きること。その子は、生きることのすべてを苦しんでいます。食べろ食べろと言われて、あなたは食べたくなりますか?
親の食生活が子供に「遺伝」する
僕は、食習慣は遺伝だと考えています。
親の体質傾向が子供に受け継がれる。
それと同時に、親の食習慣が子供に受け継がれる。
同じような体質傾向では同じような食の嗜好となりがちですから、単に学習という意味を越えて高密度に伝わると思います。
はじめに離乳食について書きましたが、幼児や少年期の子供でも同じでしょう。
まずは親が楽しく食事をしていることが大切ですね。
それを真似て、子供は食習慣を身につけます。
子供は常日頃から、あれを食べなさい!これを食べなさい!と怖い顔で言われたら、食べることそのものが嫌になってしまうかもしれません。
でも、まともな栄養状態、健康状態の親は精神状態もまともですから、いっつも怖い顔してるはずないんです。
そういう場合、まず栄養を満たさなくてはいけないのは親。
親の食生活が正常なら子供は自然とそれを食べますから、仮にいま不足傾向があってもやがて満たされてきます。
子供が食べてくれないことに悩み、精神的に不安定になるくらいなら(それ子供はひしひしと感じてます)、親がおいしくて栄養あるものを楽しく食べている姿を見せてあげればいいですね。
僕は糖質制限とか肉を積極的に食べることを勧めていますが、もし、それがどうしても苦痛だったら、特に育児中の人は楽しめる程度の適当にしたらいいと思います。
だって、親がいつも怖い顔してたら、食べることも生きることも嫌になっちゃうでしょ。
参考文献
「たのしい子育ての秘密」 金盛浦子 著 (クレヨンハウス)