妊娠出産と鉄不足

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女性の鉄不足

鉄不足の状態にある女性はとても多いようですね。

若い女性は月経によって定期的に鉄(ヘモグロビン)を失うため、

食事から吸収される鉄が不十分だと、鉄不足になってしまいます。

日本人女性の9割以上が鉄不足だとも言われていますが、

これは決して大げさな数字ではなさそうです。

僕の患者さんにも、明らかに鉄不足だと思える女性は少なくありません。

それはご本人が訴える症状のほか、

顔色、肌の色つや、姿勢や体つきを見るとだいたいわかります。

疲れやすい、冷え性、顔色が悪い、

唇が青白い、息切れしやすい、立ちくらみがする、、

このような症状があれば、鉄不足の可能性が高いです。

ちなみに「貧血=鉄不足」ではありません。

貧血とは、血液の成分が少ない状態のこと。

でも、鉄不足だと造血作用が抑制されるので、

貧血の人の多くは、鉄不足の状態にあるとも言えるでしょう。

(原因が鉄不足以外の貧血もあります)

妊娠出産と鉄不足

もし鉄不足の状態で妊娠・出産すれば、

胎児の発育にも母体の健康にもよくありません。

普通、女性の体内にある鉄の総量は2000~3000mg程度ですが、

妊娠すると、

妊娠期間中に980mgの鉄を必要とし、

分娩時の出血も含めて680mgの鉄を失います。

胎児は妊娠中に270mgの鉄を母体から奪い取ります。

その結果、、多くの妊婦は鉄欠乏に陥ってしまう。

元々持っている量と比べて、

妊娠・出産に必要とする鉄の量はかなり多い。

妊娠前から鉄不足だったら、この傾向はさらに増強されてしまうでしょう。

また、2人以上を出産する女性は、

出産回数を重ねるごとに重度の鉄欠乏になることがあります。

子供を産んでから体調が悪くなったという女性は少なくありませんが、

それは鉄不足という観点からも大いにありうることですね。

このような場合、もちろん子供にも鉄不足があると思って間違いありません。

切迫早産と鉄不足

鉄不足の状態で妊娠すると、切迫早産のリスクが高まります。

胎児が胎内から出て自力で鉄を摂取しようとするからです。

これはお腹の赤ちゃんが、

鉄が足りないから早く生まれてくるしかない、、

という状況に追い込まれているといういこと。

ただし、鉄は母乳にもあまり含まれていませんから、

鉄不足の傾向は産後も続くことになってしまいます。

鉄は生命を維持し、正常に発育していくために必須のミネラルです。

不足した状態は、決して好ましいことではありません。

ほかに妊娠時に 鉄不足があると、

出産時の大量出血リスクがあることが知られています。

できれば妊娠する前に改善しておくことが望ましいんです。

妊娠の半年以上前から準備する

鉄は体内で合成できないので、

基本的に食事から吸収する必要がある栄養素です。

食事からの鉄吸収は少しづつしか行われないので、

妊娠する半年以上前から鉄豊富な食品を十分に食べて、

体内に蓄積しておく必要があります。

重度の鉄不足だったら正常値に回復するまでに、

半年どころか何年もかかることがあります。

特に子供を産む予定がある女性は、

そのつもりで準備しておくといいでしょうね。

一般的に食品からの鉄は『ヘム鉄』の吸収率が高いとされています。

ヘム鉄は動物性食品に含まれている、タンパク質と結合した鉄のこと。

動物性食品の中でも、血液赤身の肉に多く含まれています。

血液やお肉の赤い色は、鉄分の色なんです。

ですから赤い色の動物性食品を意識して食べるといいでしょう。

もちろん野菜などに含まれる鉄分も利用されますが、

ヘム鉄と比べると吸収効率が格段に低い。

ヘム鉄の吸収率は23~28%ですが、

非ヘム鉄だと2~5%だと言われています。

ヘム鉄と非ヘム鉄では吸収効率に十倍近い差があるので、

やはり動物性食品優先で鉄を摂取したほうがよさそうです。

他に、鉄の鍋やフライパンなどの調理器具も鉄の供給源となります。

吸収効率は高くないものの、日常のことなので鉄の調理器具は有効だと思います。

どちらにしても、鉄は大量に摂取すると危険なものでもあるため、

少しづつしか吸収できないようになっています。

生理のある女性は特に、日々の食事から着実に鉄を摂り続けることが大切です。

貯蔵鉄フェリチン

鉄不足の所見がはっきり出ている患者さんに、

『鉄不足だと思いますよ』というと、あっさり否定されることがあります。

『健康診断で問題ありませんでしたから、、』というわけ。

鍼灸院では数値的に鉄不足をお伝えできるわけじゃないので、

いまいち説得力に欠けることがあります。

でも、一般的な健康診断では正確な鉄不足はわかりません。

鉄の指標はいくつかありますが、

『血清フェリチン』が最も信頼できる指標だとされています。

しかし、血清フェリチン値は一般的な検査項目に含まれないため、

本当は鉄不足なのに、見逃されていることが少なくないようです。

フェリチンは貯蔵鉄とも呼ばれ、肝臓などの内臓に蓄えられている鉄のこと。

身体は鉄を蓄えておいて、そこから必要に応じて供給しているんです。

フェリチン値が低ければ、鉄の蓄えが枯渇しているということになります。

それは、慢性的な鉄不足状態にあることを示しています。

貧血と鉄不足

血液検査で『貧血』を指摘されて、鉄不足を認識する方が多いです。

鉄が不足すると造血作用が低下してくるため貧血になる。

これが、鉄欠乏性貧血。

この状態は、鉄不足がかなり進んでいる状態です。

ちなみに、貧血=鉄不足ではありません。

貧血とは血液の細胞成分が少ない状態ですから、鉄不足以外でも起こりえます。

また、貧血ではないけれど鉄不足になっている場合も少なくないんです。

鉄不足だと、代謝が落ちてきます。

元気が出ない、冷え性、顔色が悪い、息切れ、立ちくらみ、、

このような鉄不足の兆候がある女性は、一度フェリチン値を確かめてみるといいでしょう。

フェリチン値は妊娠前に100程度あることが理想だと言われています。

実際には、フェリチン100の日本人女性は少ないと思いますが。

(男性の場合は、女性の倍程度が正常値)

鉄不足は、鬱やパニック障害などの精神症状とも深く関係しています。

子供の発達障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)なども、背景に鉄不足があるようです。

つまり、鉄不足のまま妊娠して無事に出産できたとしても、

ご本人にもお子さんにも心身の健康に問題が生じる危険があるということ。

脅すわけじゃありませんが、、注意が必要ですね。

軽度の鉄不足は、食事の改善で治ってくると思います。

重度の場合は食事だけでは難しいかもしれませんが、

栄養療法を取り入れている医療機関を受診して、

専門家のアドバイスのもとに治療をすることで治すことができるでしょう。

参考文献

『鉄代謝異常の臨床』齋藤 宏 著 (医療ジャーナル社)

『栄養医学ガイドブック』柏崎 良子 著 (Gakken)

『歯医者が難病になってわかったこと』長尾 周格 著 (三五館)