愛媛県の愛南町で媛っこ地鶏という食肉鶏を生産している、吉田裕史さんを訪ねました。
3日間の滞在でしたが、その2日目の記録です。
初日の様子はこちら→ 媛っこ地鶏の生産者 みかん家の吉田さんを訪ねました!
2日目は鶏の処理場に同行し、鶏が精肉されるまでの過程を見学させていただきました。
成長した鶏の出荷
吉田家滞在2日目、、いよいよ成長した鶏の出荷です。
愛南町を朝6時に出発して、車で1時間ほどの西予市に向かいました。
荷台に積まれた鶏、、46羽います。

顔を出してるのも。

鶏舎近くの事務所に寄り、クーラーボックスや保冷材などを積み込みました。
帰りの輸送中、肉の温度が上がらないためですね。

そこから約1時間、軽トラの荷台に鶏を乗せて処理場まで運びます。
鶏は輸送中、風が当たっているとおとなしくしているそうです。
同乗した軽トラの助手席から時々鶏の様子を見ていましたが、騒ぐ様子もなく風に吹かれていました。
輸送中に助手席から撮った写真

海沿いの道をトンネルをいくつも抜けて走り、処理場に到着。

屠畜は一瞬
軽トラを停めて鶏が入ったカゴを搬入すると、待ち構えていた職員によってすぐさま屠畜作業が始まりました。
職員というか「職人」といった感じの方でしたが、とにかく手際がいい。
無表情のその職人は、カゴから出した鶏を手際よく絞めていきます。
絞め方をよく見たかったのですが、、見てもわからない。
切れ味の良い小さなナイフを使って頸動脈を一瞬で切っているようでしたが、、手早すぎて見えませんでした。
場の空気に飲まれて、落ち着いて見ていられなかった部分もあります。
ところで屠殺される鶏が苦しむかどうか、、気になるところだと思います。
もちろん鶏になってみないとわかりませんが、苦しむ時間はなさそうに見えました。
輸送用のカゴから取り出されるとき、鶏は「コケーッ!!」と大きな声で鳴きますが、これは痛いからじゃなく、びっくりして鳴くのでしょう。
そして次の瞬間、、頸動脈が切られている。
一瞬の出来事です。
血抜き・羽根を取る
頸動脈を切られた鶏は、メガホンのような形状の「血抜きのための道具」に逆さまに入れられ、しばらくバタバタと暴れていました。
この暴れている姿を見たら、普通の人は眉をひそめるかもしれません。
でも、たぶん、、鶏に意識はないでしょう。
脳への血流が途絶えるからです。
その後しばらく脊髄反射のような反応で、心臓が止まるまで動き続けるのでしょう。
絞められた鶏は血抜きが終わったあと、大きな容器に沸いた熱湯をくぐり、羽根を取り除く機械に入りました。
回転式の機械の中でぐるぐる回り、出てくると、ほぼ完全に羽根が抜けていました。
数分前まで生きていた鶏ですが、こうなるともう「肉」という感じです。
その後、機械で取りきれなかった羽根を手作業で抜いていく工程があり、手伝わせていただきました。
(手伝ったというか、、邪魔になりながらやらせていただいた)
これは皮に残った羽根を注意深く見つけ、取り除く作業です。
折れた羽の根元が毛穴の中に残っていることがありますが、それを見つけ出して抜いていきます。
見ると簡単そうですが、やってみるとなかなか難しい。
何度も吉田さんに教わりながら、恐るおそる作業に参加しました。
解体・精肉の職人技
やがて羽根抜きが終わり解体が始まったので、邪魔にならないよう後ろで見学させてもらいました。
吉田さんと処理場の職人たちが、鶏を次々と捌いていきます。
まず背中に切れ込みを入れ、腿を外し、手羽と胸肉を外し、胸骨を外して、内臓を抜き取ります。
胴体から抜き取られた内臓は、別のスタッフの方が流しで洗いながら、レバーや砂肝などを慎重に取り出しています。
部位ごとにきれいに精肉していく作業は手際良く、速く、美しく、まさに職人技でした。
僕は元パン職人なので、こういうのは大好き。
ご迷惑だとは思いながらも、興味ありすぎて食い入るように見ました。
僕も自分の鶏を絞めたときに一羽一羽時間をかけてやった作業ですが、、あまりの手際の良さにびっくり。
見とれて口が開いたままになった、、という感じです。
まぁ、プロなので当たり前ですが、、でも、すごい。
少しでもコツを覚えたいと、食い入るように見続けましたが、たぶん身についてないでしょうね。
こういう仕事は実際に手を動かしながらでないと、なかなか習得できないと思います。
総勢6人で解体・精肉に少なくとも2時間以上かかったはずですが、あっという間に感じました。
砂肝の皮むき
「何か手伝えそうなことありますか??」と聞くと「ずりを剥く」作業をさせてもらえました。
ずりとは、砂肝のこと。
砂肝の内容物を取り出して、きれいにする作業です。
鶏の砂肝は前胃とも呼ばれますが、強い筋肉でできているゴルフボール大の組織です。
鶏には歯がありませんが、代わりに砂肝を持っている。
くちばしでつついたものを丸ごと飲み込み、砂肝ですりつぶすように「咀嚼」します。
咀嚼という言い方が正しいかわかりませんが、人や牛などの哺乳動物が歯でもぐもぐと噛むことを砂肝で行っているんですね。
砂肝には小石などが入っていてすり潰すために使われます。(それで砂肝と呼ばれるのでしょう)
さて、この砂肝、、胃の内容物に触れる面には丈夫な皮が付いていますが、その皮を引き剥がす作業をさせてもらいました。
作業の見本を見せてもらい、なるべく教わった通り、、と思いながらやりましたが、、手際よくできません。
もちろん売り物ですから、傷つけないように注意しながら慎重に剥き続けました。
そうこうしているうちに、この日出荷する46羽の解体・精肉作業が終わり部位ごとの袋詰めも終了。
精肉されたばかりの鶏をクーラーボックスに入れ、車の荷台に積み込み、愛南町の事務所に戻りました。
このとき処理場裏から見えた風景。
写真には写っていませんが、下の道を「お遍路さん 」が歩いていました。

自前の処理場を持つ
吉田さんは今後、食鶏の処理場を自前で持ちたいと考えているそうです。
いつも吉田さんとお母さん、もう一人スタッフの方の3人体制で処理場に向かい一緒に作業をしています。
その分、処理場の労力は大幅に軽減していますが、、正規の料金を支払っているそうです。
でもこれは、専業のプロの技を身に着けるチャンス。
吉田さんはこのように何年もかけて地道な努力で技術を磨き、鶏の生産から屠畜、解体・精肉までを自前で行えるスキルを養っているのです。
鶏の飼育だけでなく、ここまでしている生産者は少ないんじゃないか?
吉田さんは姫っこ地鶏を飼い始めて7年になるそうです。
少ない羽数から飼い始め、少しずつ販路を開拓しながら飼育や精肉のスキルを磨き、地道に時間をかけて事業を育てている様子は堅実そのもの。
将来自前の処理場を持ったとしても、経営はきっと上手く行くだろうと思いました。
鶏肉の発送作業
吉田家は出荷の日、朝からとても忙しいです。
西予市の処理場から事務所に帰ると、早速出荷作業が始まりました。
地元のお客さんには車で直接配達し、全国のお客さんの元へは宅急便で配送します。
これは直売を行っている生産者にとって、けっこう重要で大変な作業ですね。
ちなみに、この日の出荷作業中に届いたドレッシングがあります。
吉田さんが自分の鶏に合うドレッシングを探し、見つけ出したバジルドレッシング。
この夜、チキンカツにかけていただきましたがめちゃ旨でした。

吉田さんは現在、媛っこ地鶏の肉以外に、地域の特産物や鶏肉に合う調味料なども取り扱っています。
生産した鶏肉を直売するだけでなく、ネットでの発信力と販売力生かして地域の産物や鶏肉のおいしい食べ方を紹介しているんです。
肉の販売方法もユニークで、コメント欄での競争入札制のようになっています。
つまり早い者勝ちで、在庫があれば注文コメントに「いいね!」が付いて取引成立。
初回に送付先住所などを伝えたら、2回目からはコメントだけでOK。
注文するお客さんの側も非常に楽ちんですし、とても面白い販売方法だと思います。
ときどき覗くと、すでに売り切れていることが多い、人気のFBページです。
70個の卵と食べきれない肉
現在は肉の販売が好調で生産が追い付かない状態の吉田さんですが、、全く売れない時期もあったそうです。
飼育を始めた当初は販路を持っていなかったため、大きくなった鶏が卵を産み始めても出荷できず1日70個も卵が採れた日や、鶏肉が毎週10キロ以上売れ残ってしまい、毎日ひたすら鶏肉を食べ続けた時期もあったんだとか。
今では懐かしいと話していましたが、当時は心理的にも辛かったと思います。
このような苦しい時を乗り越え、派手な宣伝に走ったりもせず、生産を重視した質実剛健なスタイルを貫いている。
まだお若いですが、芯のある生産者だと感じます。
今は1000羽規模で鶏を飼育していますが、初期の頃、50羽くらいの時が一番楽しかったとも話していました。
出荷の前夜、鶏の捕獲に立ち会って感じた緊張感、、処理場で屠畜される鶏を見ているときも僕は圧倒されました。
慣れないから、、ともいえますが、常時たくさんの鶏を飼育し、大きくなると次々と出荷していくことは言葉にしにくい重みがあると思う。
これは職業として鶏を飼育するなら避けられないことですが、生き物から命をもらう行為は軽くありません。
吉田さんは、処理場で鶏を捌き終わると「肉体的な疲れとは別の疲れ」を感じると言っていましたが、その重みを受け止める疲れなのかもしれません。
山に並んだソーラーパネル
宅急便の発送が終わったあと、地域の取引先への納品に同行しました。
その日捌いた鶏を、地域のお店や料理屋さんに車で直接届けて行く。
鮮度が命の食品ですから、これは理想的な形ですね。
愛南町は海辺の町で、入り江がたくさんあります。
入り江では真珠、タイ、カツオなどの養殖が盛んで、沢山の筏が浮かんでいました。
環境負荷の面で悪く言われることもある魚の養殖ですが、見たところ海はとてもきれいで悪臭もしません。
このとき、面白い場所に案内してくれました。
山に設置されたソーラーパネル
これ、、景観壊し過ぎでしょ(笑)

近年、山林や農地などにソーラーパネルを設置する「投資」が流行っているそうです。
滞在中あちこちで、田んぼや畑に太陽光発電のパネルが設置されている光景を目にしました。
景観的にもアレですが、電圧の調整のために常に一定の音を発するので、騒音被害もあります。
近所にソーラーパネルを設置されて騒音被害に悩んでいるおばあさんの話も聞きました。
太陽光発電は「エコ」だと推奨されていますが、パネルを作るためのエネルギー、消費する資源を加味するとそうでもないと言う話もある。
やがて耐用年数を超えた時どうやって廃棄するのかも含め、いろいろと問題がありそうです。
愛南町ではソーラーパネルの他、風車建設の話も持ち上がっているそうです。
地域は土建屋さんが強くて、こういうものの建設に積極的なんだとか。
一見「エコ」なイメージのある風車ですが、3年目を越えると途端に騒音が大きくなるそうです。
冷蔵庫でも何でもそうですが、機械は劣化していくので、騒音もだんだん大きくなるのでしょうね。
そして、発電に使用できる耐用年数を超えたとき、膨大な処理費用を本当に設置した企業が負担するのか、、。
企業がその時期までに倒産したら自治体に回ってくるんじゃないか、、地域にこういうものが乱立しだすと後々の不安要素がけっこうありますね。
吉田さんはこのような地域の将来を危惧し、風車建設について話し合う団体の活動にも関わっています。
また、このような用途に山が使われてしまう背景には、地域の人が山に入らなくなってしまった現実がある。
かつては林業・薪炭林・狩猟・採集など生活と密接していた山に人が入らなくなり、意識の中でも山の価値が薄れている。
これは、猪や鹿が人里まで降りてくるようになった要因だとも言われています。
地方でソーラーパネルや風車が乱立している背景には、そのような事情も大きく影響しているとのこと。
吉田さんは最近、なるべく山を歩くようにしているそうですが、まずは自分が山を歩き、そのうえで地域の未来を考えたいという思いを持っているようでした。
その日に捌いた鶏の味
滞在中は美味しいものをたくさん食べさせてもらったのですが、この日は午前中に捌いた鶏をいただきました。
食べるのに夢中で写真を撮り忘れたことが悔やまれますが、、レバーと砂肝の刺身やチキンカツなど、どれもほんとおいしい!
鶏のレバ刺しは食べたことありますが、砂肝の刺身は初めて。
お酒飲みながら、たぶん2人前くらい平らげました。
まったく臭みがなく、とてもおいしかった。
肉の中でも内臓は特に栄養豊富な部分です。
新鮮なレバーや砂肝をたくさん食べたせいか翌日も旅の疲れを感じず、滞在中は妙に元気でした。
この日も夜に鍼灸をして、遅くまで話し、、0時近くに就寝。
翌日はもう帰る日ですが、午前中の餌やり作業を手伝わせてもらいます。
3日目へつづく→ 吉田家訪問3日目