日本の乳製品利用の歴史
前回の記事( 乳製品と乳糖 )で、
「日本で一般的に牛乳が利用されるようになったのは明治期以降」と書きました。
でもそれは、一般化した時期のこと。
歴史的には少なくとも古墳時代頃から、日本でも乳製品が利用されていたようです。
当時の大和朝廷は大陸から新しい文化を積極的に取り入れようとしていましたが、
仏教などと一緒に乳製品の利用法も入ってきたんですね。
薬としての乳製品
その時代、東アジアでは乳製品が「薬」として扱われていました。
当時の食生活の中では、滋養に富む食品だったのでしょう。
五臓の働きを助ける
大腸に効能がある
口内炎や熱感を伴う症状に効く
昔の文献には薬効として、このような記述が残っていて、
手元にある「中医栄養学」という本にも、乳製品については次のように書かれています。
牛乳
五臓を保養し、病後の衰弱や虚弱体によい。体内の水液を生成して、腸を潤し、腸を潤し便秘を治す。渇きをいやし、皮膚をなめらかにする。
羊乳
五臓を温めて潤し、虚弱を保養する。心肺を潤してむかつき、口渇をとめ、小児の口中の腫れものを治す作用がある。
チーズ
補血、体力増強の効が大きい。
(中医栄養学 山崎郁子 著 P.221より引用)
貴族のあいだでもてはやされた『蘇』(そ)
飛鳥時代には、今でいうバターに相当する「酥」(そ)と呼ばれる乳製品が、牛のミルクから作られていたと考えれられています。
奈良時代には、日本で独自に開発されたであろう濃縮乳の『蘇』(そ)と呼ばれる乳製品に発達して全国に広がります。
(※酥と蘇は違うものらしいです)
天皇に蘇を地方から献上する律令制度もつくられるほど重要な食品になっていました。
蘇は、それほど魅力的な食べ物だったんですね。
その後鎌倉時代まで貴族の間で重用された蘇ですが、鎌倉時代中期以降にはいったん姿を消します。
当時、南北朝の戦乱で貴族社会が混乱していたため、庶民の食べ物ではなかった蘇は簡単に姿を消してしまったようです。
再びヨーロッパからもたらされた乳文化
その後の約400年間、日本のミルク文化は空白期がありました。
そして江戸時代中期(1727年)に、徳川吉宗がオランダ領ジャワからコブ牛を輸入しました。
このコブ牛から搾乳し、ミルクを煮詰めた製品を作り始めたと言われています。
この煮詰めた乳製品は貴族や武士に納められ、栄養不足を改善して肺結核に効く妙薬として用いられました。
そして、乳製品が大衆のものになったのは、明治期以降のことです。
1860~70年代にかけて、鎖国が解け、日本に外国人が住むようになりました。
それとともに、アメリカやヨーロッパの技術が導入され、牛乳、バター、チーズなどが日本でも製造されるようになり、大衆のための乳文化が日本でもやっと始まったわけです。
そして、1945年の敗戦以降、乳製品の生産と消費が飛躍的に伸びました。
酪農家を資金的に優遇する政策がとられ、学校給食にも牛乳が導入されます。
その後アメリカの食文化の影響を受け、ミルクにパンという食事のスタイルが定着していきました。
牛乳有害説
前回の記事牛乳と乳糖では、
牛乳とヨーグルトは控えた方がいいんじゃないか、、と書きました。
牛乳についてはいろいろなことが言われていて、
飼育方法や餌に問題がある
製造方法に問題がある(加熱処理やホモジェナイズなど)
乳糖がいけない
カゼインがいけない
牛の成長ホルモンで身体がおかしくなる
かえってカルシウム不足になる
アレルギーになる
ガンになる
難病の原因になっている
そもそも人間の飲むものじゃない
などなど、、ちょっとかわいそうなくらいです。ウシが。
このような牛乳有害説、僕が読んだ本の中ではこの本に詳しく書いてあります。

アメリカの医師が書いた本ですが、内容を信じるなら牛乳はちょっと使えないかな。
でも、この本の内容には疑問も残ります。
世界各地に乳製品を利用して生き延びてきた民族がたくさんいる理由は説明できないと思うから。
多くはヨーグルトやチーズ、バターなどに加工して食べているのですが、それにしても乳糖や乳タンパクを大量に摂取しています。
それでも近代的な生活をしているわれわれより、ずっと健康らしいんです。
牛乳は日本人に合わない??
牛乳を控える方針を話すと「日本人には合わない」という言葉で納得する方が多いですね。
これ、そうなのかそうじゃないのか、、僕にはわかりません。
でも、歴史的経緯を考えると「慣れないものを飲んでお腹こわす」的な現象はあるかもしれない。
ただ、モンゴル人も日本人も人類としての構造は同じですから「日本人には合わない」っていうことがそんなにあるのかな?とも思う。
牛乳そのものの問題とは別に、近代的な飼育法や製造方法の問題は多かれ少なかれありそうです。
工業的に大量生産して市場に流通させるには、殺菌や品質の均質化が必要になります。
それによって「食品」としての質の劣化を招いているようです。
そうならないような飼育法や製造方法もあるようですが、コストがかかる、、つまり高くなる。
だから、本物を使いましょうと言う話は当然、それなりに高く付きます。
妻に「グラスフェッドの牛乳に変えてみる?」と聞いたところ、値段を聞いて「「いらない」と言われました(笑)
スーパーなどで手ごろな値段で手に入る牛乳やヨーグルトは、体感としてどうも良くないので控えています。
個人的な体験を超えてそう感じているため、僕の鍼灸院では患者さんにも控えることをすすめている。
その一方で、いづれ自分でヤギでも飼って、絞りたてを飲んでみたいなーなんて、実は考えています。
参考文献
「中医栄養学」山崎郁子 著(第一出版)
なぜ「牛乳」は体に悪いのか フランク・オスキー著 (東洋経済)