消化の良い食べ物を作る3つの条件~8年間胃の働きを観察され続けた男の話~

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8年間胃の働きを観察された男の話

食べ物は生のまま食べるより、

適切に加熱調理することで消化吸収が良くなります。

その意味での料理の目的は、素材を柔らかくすること。

より柔らかく、小さくされた食物ほど消化吸収効率が高まるようです。

普通、より柔らかい食べ物を人は好みますが、

これは生物としての本能的な欲求なのかもしれません。

「柔らかく小さくした食べ物は消化されやすい」

そのことを、直接観察して確かめた人がいました。

これは今から200年近く前、アメリカミシガン州での出来事です。

サンマーティンバーモント

1822年6月6日、サンマーティンという28歳の青年が、

誤って1メートルの至近距離から銃で撃たれました。

銃弾はサンマーティンの横腹を吹き飛ばし、

事故の現場は血まみれになりました。

運よく、戦地で働いたこともある外科医のボーモントが近所にいて、

すぐに現地に駆けつけました。

後に、ボーモントはこう記述しています。

横腹の大部分が吹き飛ばされ、肋骨が砕けて、手の施しようのないケースに見えた。横隔膜も破れ、穿孔が直接胃の穴に達し、私が救護に呼ばれた時には、食べたものがそこからもれていた。※1

ボーモントは瀕死のサンマーティンを連れ帰り、その後も自宅で看病を続けました。

サンマーティンは奇跡的に一命をとりとめ、

数か月で元の活動的な生活に戻り、ついにはカヌーに家族を乗せて、

ミシシッピー州からモントリオールまで漕いでいくほど元気になったそうです。

(直線距離で  1,985.08 km  、すんごい距離ありますけど!?)

misisippi

 

しかし、横腹に空いたこぶし大の傷は完全には塞がらず、

それ以降、サンマーティンの胃袋は外から観察できる状態になります。

探求心の強いボーモントは興味を持ち、サンマーティンにお金を払って研究対象とします。

その後8年間、サンマーティンの胃袋に入れた食べ物がどうなるか、断続的に観察し続けたのです。

正午、食べ物を腹部の穴から胃に入れた。痛みが無いよう絹糸で吊り下げ、適当な長さのところに結び目を作った。入れた食物は、濃い味付けで煮た牛肉、生で塩を振った脂肪分の多い豚肉、生で塩をふった赤身の牛肉、ゆでて塩をふった牛肉、古いパン、刻んだ生のキャベツを、おのおの約3.5グラムずつ。青年(サンマーティン)は家の周りで普段通り仕事をしていた。※2

外科医ボーモントは、胃の働きをつぶさに観察しました。

食物が入っていない時は極めて静かで粘膜皺も動かない。スープが入ってきても胃は最初ゆっくりと反応する。粘膜皺がそれを包み込み、少しずつ幽門へ流していく。※3

※1「火の賜物」P.69より ※2※3「火の賜物」P.68より引用

バーモントが食べ物を直接胃壁に置くと、

胃は興奮して色が明るくなったそうです。

そして、やがて粘膜から大量の消化液が分泌され、

薄い液体が胃壁全体に行きわたったと記しています。

こうしたボーモントは、史上初めて胃の消化運動を「目撃」しました。

消化の良い食べ物を作る3つの条件

バーモントは断続的に8年間行われた実験により、

食べ物が胃で消化されて小腸に送られるまでの様子を記録しました。

その結果、次のような結論を導き出します。

1.柔らかくなればなるほど消化吸収が早く、完全に行われる

2.小さく砕かれた食べ物ほど消化しやすい

3.生の食べ物より、加熱調理したものの方が消化しやすい

例えば、茹でたジャガイモを粉末状にしたものの消化は早いですが、

固形のままでは胃の中に長時間とどまりました。

肉でも同じような結果が出ました。

肉を柔らかく、小さくするほど容易に消化され、

逆に、硬くて大きな塊ほど消化に時間がかかることが分かりました。

肉は、繊維を細かく分断し、より柔らかくすることで、

胃における消化がスムーズになるようです。

この実験には加熱調理の重要性についても示しています。

生のジャガイモを数時間胃液にさらしてもほとんど消化されず、

形が変わりませんが、ゆでたジャガイモであれば消化されました。

肉についても茹でた肉と生の肉を胃袋に入れると、

茹でたほうは2時間ほどでなくなりましたが、

生の肉は表面が少し柔らかくなっただけでした。

食材を 1.柔らかくする 2.細かくする 3.加熱する

これが、消化の良い食べ物を作るために必要な条件だということです。

 

医学的興味の対象

この研究は、胃での食べ物の消化についてとても参考になりますが、

サンマーティンは後年、科学的興味の対象にされたことを恨んでいたそうです。

1880年に85歳で亡くなるころには、非常に不当な扱いを受けたと感じていました。

その後バーモントとの関係を一切断ち、

死後もサンマーティンの内臓に対する医学界の興味を根絶するために、

死後4日間死体を家族のもとにとどめて確実に腐敗させたうえ、

通常よりもはるかに深く掘った墓穴に埋葬したのでした。

考えてみると気の毒ですが、、

でも、事故の後も85歳まで生きることができたんですね。

200年前の話ですから、かなりの長寿だったと思います。

消化の労力を減らす

このようにして、動物性、植物性に関わらず、

料理によって消化効率が高まることが確かめられました。

食べ物を、

柔らかくする

細かくする

加熱する

それによって同じ食材からより多くの栄養素とエネルギーを取り出すことができます。

しかし、料理の効用はそれだけではありません。

もう一つ重要なのが「消化の労力が減る」ということです。

食べ物の消化には大きなエネルギーを必要とします。

食事をすると大量の胃液や消化液が分泌されます。

胃腸に大量の血液が集まりたくさんのエネルギーが消費されます。

実際に、野生動物のほどんどは、

食べ物を得ることと消化するためにエネルギーを費やしています。

ところが人は料理することによって、

消化にかかる労力を大幅に減らすことに成功しました。

その分、脳が大きくなり、今のような知能の高い生き物に進化した、、

人類学の説として、このように言われていますね。

料理は食べ物を消化しやすくする

バーモントの研究からもわかりますが、

食物を消化しやすくする方法は、主に次のようなものです。

切る、つぶすなどして、物理的に細かくする

酸、塩、乾燥、熱、により科学的に変性させる

これらは通常「おいしくするため」に行われていること。

普通はこれらの行為を、料理、調理と言いますね。

物理的に細かくすることについては、噛むことも大切だということが分かります。

同じ料理を食べるのであれば10回噛んで飲み込むより、

100回噛んで飲み込んだ方が消化効率も栄養の吸収も高まると同時に、

消化にかかるエネルギーと栄養素を節約することができるでしょう。

参考文献

「火の賜物」リチャード・ランガム 著 (NTT出版)