腎虚と栄養不足~先天の精・後天の精を作るもの~

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腎臓の精気不足

東洋医学では内臓の『精気不足』によって病気が起こると考えています。

特に、腎臓に蓄えられる精気『腎精』は、生殖、発育、病気、老化などに大きな影響を与えます。

腎虚(じんきょ)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

これは腎臓の精気が弱くなった状態、つまり腎精不足の状態を指す言葉です。

東洋医学にとって腎は最も重要な部分なのですが、特に腎と栄養について僕の理解するところを言語化してみます。

腎精の不足は主に飲食の問題胃腸機能の低下によって起こりますが、父母から受け継いだ『先天の精』が少ないことも腎精が不足する原因です。

なぜなら腎精は、両親から受け継いだ生命力である『先天の精』と、食べ物や呼吸から得た精気である『後天の精』が合わさったものだから。

これはつまり「生まれ持った素質」と「日頃の栄養」ですね。

この2つの要素が、腎精の不足や充実に大きく影響しています。

もちろん親から受け継ぐ生命力には、親の健康状態や栄養状態が大きく関わっているでしょう。

だから先天の精も後天の精も、普段の食事や栄養状態とかかわりが深いものなんです。

腎臓が弱ると全身の機能が低下する

腎精は、腎臓以外の内臓、肝、心、脾、肺を滋養しています。

だから腎精が不足するとほかの内臓や脳、骨、生殖器などの重要な臓器の精気も不足し、機能が低下してしまう。

東洋医学で腎は西洋医学の腎臓と重なる部分もありますが、より広い働きを含んだ概念になっています。

『腎は生命力の根本』だと言われ、特に重要視されている内臓なんです。

この腎臓が弱ると、様々な体調不良が現れてきます。

腎虚で起こる症状

腎臓の弱り、腎精不足で生じる症状には、例えば次のようなものがあります。

子どもの発育不全

腎精が不足すると発育が遅れ、骨格が軟弱になり、動作や知能の発達が遅れます。また小児喘息やアトピーも腎精不足が関係しています。

生殖能力の低下

腎は生殖能力を主っています。男女の不妊症や性欲の減退、生理不順、無月経、流産、ED、精子数の減少なども腎精不足によって起こる問題の一つです。

健忘、痴呆

腎は脳の働き、特に記憶力と関係く、腎精が不足すると物忘れがひどくなったり痴呆症を引き起こします。

失禁、夜尿症

腎臓は膀胱と表裏関係にあります。腎臓が弱ると膀胱に尿をとどめておく力が弱くなり、尿もれが起こりやすくなります。子どもがおねしょしやすく、大きくなるにつれてしなくなるのは、成長に伴って腎精が強くなってくるからです。

難聴、耳鳴り

腎精が不足すると腎と関係する器官である耳に不調が現れますが、これは加齢とともに多くなる症状です。

ほんの一例ですが、このような症状が出ていれば東洋医学的には腎臓の弱り、つまり腎虚と考えて治療に当たります。

鍼灸では胃腸、下腹部、腰、腎経のツボなどを整えることで治療しますが、もちろん食事や栄養の改善も重要な要素です。

何故かと言えば、後天の精は食べたものから出来ているから。

老化や発育と腎の関係

性的な能力の減退、健忘や痴ほう、難聴や耳鳴りなどは一般に老化現象として起こる症状ですが、そもそも老化は腎精の枯渇によって起こります。

生長ともに充実し30才前後で最盛期を迎える腎精は、その後年齢とともに徐々に少なくなっていくんです。

ですから老化=腎の弱りと考えて間違いではないですし、腎精を養うことは老化を遅らせることにつながります。

また腎精は発育や成長を支えていますから、発育不良や先天的な問題も腎精不足によって起こる問題です。

これには成長期の栄養状態はもちろん、妊娠前の母親の栄養状態、受精前の父親の栄養状態も大きく関与しています。

それが元になって先天の精が作られるからです。

栄養と東洋医学

僕は日ごろから普段の食事、特に妊娠中から成長期にかけての食事と栄養状態が重要だと言っていますが、説明は伝えやすさから栄養学や現代医学の言葉を使ってきました。

でも実は、元々東洋医学の考え方なんです。

漢方医や鍼灸師などの東洋医学者の中には、栄養学や糖質制限などを否定する人が少なからずいます。

過去からの伝統を重んじる仕事ですから無理ないのかもしれません。

でも少し柔軟に考えると、細部はさて置き、東洋医学と最新の栄養学や生理学の見解はほぼ一致していると思えます。

見方・考え方もそうですが、鍼灸臨床という現場にいるものとして体験的にも一致することが非常に多い。

おそらく東洋医学的な体質、例えば腎虚、肝虚、脾虚、肺虚などと言われるものも、成長過程における栄養状態が大きく関係しているはずです。

臨床では現代的な視点からの食事や栄養のアドバイスを、鍼灸の効果を高め、回復を早めるために活用しています。

一見、背景の違うものを無理に組み合わせているようでもありますが、実際にはさほど無理が生じているわけではなく、むしろ高い相乗効果を発揮している。

それは東洋医学が培ってきた考え方と近代的な栄養学・生理学との間に、ベーシックなところで一致するものがあるからだと考えています。