薬膳
最近、食材が持つ性質を東洋医学の薬膳的な視点から見直しています。
例えば、葱や生姜、唐辛子などの薬味、野菜の香りで食欲が増すとか、体調が変わるとか、季節によって欲する野菜や食材があるとか、そういうことは日本人なら誰もが体験してることでしょう。
薬膳(漢方の栄養学)の発想は科学的ではありませんが、実体験に即した価値を持っています。
今では鍼灸も漢方薬も科学的な研究がなされていますが、もともとは西洋の科学とは全く異なる世界観から生まれたもの。
東洋の食物学を養生や治療に応用した薬膳も、陰陽五行や氣血水といった西洋医学とまったく異なる考えから成り立っています。
体感しやすい漢方理論
漢方ではあらゆる食材を独特の方法で分類し、季節や体質に合わせて『薬膳』として処方しています。
その分類法は例えば、
酸、苦、甘、辛、鹹、の五味(※鹹は塩辛い)
熱、温、平、涼、寒、の五性
このように感覚的に理解しやすい概念が多い。
自分の体質を大まかに把握したうえで日常使う食材の性質を調べれば、家庭でも十分に活用できると思います。
日々の食事に、冷え性なら熱や温の食材を選び、熱を持ちやすい体質なら涼の食材を選ぶ。
大量に食べるのではなく、メニューに少し加えればよいのです。
これだけでも体感はかなり変わりますし、自分の体調を自分でコントロールするという実感が得られる。
肉や卵をしっかり食べる栄養充実の食事と合わせても良し。
野菜など身近な食材を使い、体質に合わせた微調整ができるのです。
使えない?
肉食と栄養充実の価値に目覚めた当初、薬膳は正直あまり使えないと感じていました。
腎虚だったら黒い色のものを食べるとか、血流が悪ければ生姜を使うとか、ある程度効果があるとしても枝葉末葉のテクニックだと思った。
脂質やタンパク質など基礎的な栄養の充実をおろそかにした、根本的には体質を変えることのできない方法だと。
でもこれ、その時の僕にとって『それだけでは根本的に改善しない』ということでしかなかった。
若いころからベジタリアンの思想に影響を受けて、重度のタンパク不足で栄養不足だったから。
確かに、タンパク不足で代謝が落ちた結果として冷え性になっている人は、いくら温めても、生姜や葱などの熱性の食材を食べても根本的には治りません。
食材の陰陽五行、寒・温などの性質うんぬんの前に、手近な肉や卵から基礎的な栄養素を十分とる必要があります。
そんな状態で冷えを改善すると言われる漢方薬を飲んでも効果は一時的でしょう。(僕はそうでしたし、当院の患者さんも多くが同じ体験をしています)
なにしろ湯液(漢方薬を使った治療)の兄弟である鍼灸で冷えの治療をしても、効果は一時的なものですし。
実際、冷え性の鍼灸師は少なからずいるんです。
当たり前のこと
でも、だからと言って、それが使えないと判断するのは浅はかでした。
そういう『当たり前のこと』を押さえたうえで、体質や状況に合わせて使うのが本来でしょうから。
だいたい東洋医学、漢方は肉食を否定していないどころか、身体に滋養を与える食材として重視しています。
実際に漢方系の東洋医学が浸透している中国や韓国の料理には動物性食品が多用されていますよね。
例えば、五臓との関連で、
鶏肉は肝、羊肉は心、牛肉は脾、犬肉は肺、豚肉は腎、
それぞれ、これらの内臓と経絡に働きかけて強くしてくれると言われています。
経絡は全身に分布していますから、肝臓などの臓器だけでなく関係する部位に生じた症状にも対処できるという考え方です。
例えば、動悸は腎の病症。
腎が弱っていると考えて腎を強くする豚肉や適度な塩味を使う。
また「同じものによって強化する」という考えから、レバーは肝を強くして血を増やし、ハツは心を強くするなどと考える。
その応用で豆は腎を強くする、クルミは脳に良いなどというのもあります。
共に形が似ているので、同じ情報を持っていると考えるんです。
現代人から見るとへんてこな理屈ではありますが、例えば心の病、つまり精神疾患と鉄・タンパク不足の問題もこの発想で対処できてしまっている。(ハツはヘム鉄豊富な内臓です)
豆は高タンパクですし(多くの腎虚の症状はタンパク不足によるもの)、クルミも脂肪酸のことなどを考えると脳に良い食材です。
漢方や薬膳は農耕民族の文化が産んだ医学なので、穀物を主食とする食生活を前提としています。
糖質制限の考え方を持っていると、ちょっと受け入れにくい部分もあるでしょう。
でも、そこは伝統医学、いままでの文化の中で生まれたものですから当然なんです。
こだわらず柔軟に考えればいくらでも応用が利くものであり、薬膳は、実はかなり有益なものだという認識に変わってきました。
僕個人としては当然、この中で糖質や炭水化物の価値も『氣を補い脾胃を補う食材』として再評価する必要があると考えています。